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産業用組み込みシステム開発におけるポイントについて

工場の巨大なロボットアーム、社会インフラを支える監視システム、精密な動作が求められる医療機器。これらの機器が、過酷な環境下でも長期間にわたり正確かつ安定して動作するのは、内部に組み込まれた「産業用組み込みシステム」のおかげです。
これらは一般的な家電製品に搭載されるシステムとは異なり、開発において格段に高い信頼性や耐久性が求められます。今回は、現代の産業を支える、産業用組み込みシステムの基本から、その開発で押さえるべき重要なポイントをご紹介いたします。
産業用組み込みシステムとは?
産業用組み込みシステムとは、工場の生産ライン(FA:ファクトリーオートメーション)、エネルギー設備、医療機器、交通システムなど、産業分野で利用される特定の機能を実現するために設計された、専用のコンピュータシステムです。
一般的な家電製品(コンシューマ機器)に搭載される組み込みシステムが、コストや消費電力、小型化を重視する傾向にあるのに対し、産業用組み込みシステムは「高い信頼性」「長期的な安定稼働」「優れた耐久性」が最優先されます。
多くの場合、24時間365日の連続稼働や、高温・低温、強い振動、電磁ノイズといった過酷な環境下での使用が前提とされます。
産業用組み込みシステムはどのような分野で利用されているのか?
産業用組み込みシステムは、私たちの社会や経済活動を支える、様々な分野で活躍しています。
FA(ファクトリーオートメーション)
工場の生産ラインを制御するPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)、産業用ロボットのアーム制御、製品の異常を検知する画像検査装置など。
社会インフラ・エネルギー
電力網を監視・制御するスマートグリッド関連機器、交通管制システム、鉄道の運行管理、ダムやトンネルの監視装置など。
医療機器
MRI、CTスキャナ、内視鏡システム、人工呼吸器など、わずかなエラーも許されない、高い精度と安全性が求められる機器。
計測・制御機器
半導体製造装置、研究開発用の高精度な測定器、プラントのプロセス制御装置など。
その他
建設機械の自動制御、農業用ドローン、防衛・航空宇宙関連機器など、過酷な屋外環境で使用される機器。
産業用組み込みシステム開発で考慮すべき重要ポイント
産業用組み込みシステムの開発は、コンシューマ向け製品とは異なり、特有の要求に応える必要があります。特に以下の5つのポイントが重要です。
ポイント①:高い信頼性と安全性(セーフティ)
システムの停止や誤動作が、重大な生産ロスや、場合によっては人命に関わる事故につながる可能性があります。そのため、故障時にも安全な状態を維持する「フェイルセーフ設計」や、予備システムを準備する「冗長化」が不可欠です。また、医療機器や交通インフラなどでは、機能安全に関する国際規格への準拠が求められます。
ポイント②:長期安定供給と保守性
産業機器は、一度導入されると10年、20年と長期間にわたり使用されます。そのため、開発時に使用するCPUやメモリ、電子部品が、長期間安定して供給可能(EOLが早い部品を避ける)であることが極めて重要です。また、将来的なメンテナンスや部分的な機能アップグレードを考慮した、保守性の高い設計も求められます。
ポイント③:リアルタイム性
工場のモーター制御や精密計測機器では、プログラムが「速く動く」こと以上に、「決められた時間内に必ず処理を完了させる」という厳密なリアルタイム性能が求められます。この要求に応えるため、一般的なOSとは異なる「リアルタイムOS」の採用や、ハードウェア(FPGAなど)による高速な並列処理が検討されます。
ポイント④:優れた耐環境性能
工場内の高温・多湿な環境、寒冷地での低温、屋外設置機器の防水・防塵性能、建設機械や輸送機器の激しい振動や衝撃、モーターなどから発生する強力な電磁ノイズなど、設置場所特有の過酷な環境に耐えうるハードウェア設計(基板設計、筐体設計)が必要です。
ポイント⑤:強固なセキュリティ
近年、工場や重要インフラを標的としたサイバー攻撃が増加しています。外部ネットワークから物理的に隔離するだけでなく、不正なプログラムの実行を防ぐ「セキュアブート」や「通信の暗号化」など、システムのライフサイクル全体を通じた強固なセキュリティ対策が必須となっています。
産業用組み込みシステム開発におけるハードウェアとソフトウェア
産業用組み込みシステムは、その目的を達成するためにハードウェアとソフトウェアが密接に連携して動作します。開発においては、前述の重要ポイント(信頼性、長期供給、リアルタイム性など)を常に考慮して最適なものを選択します。
ハードウェア
システムの「頭脳」として、求められる処理能力や信頼性、供給性に基づき、CPU、MPU(マイクロプロセッサ)、マイコンを選定します。この際、民生品グレードではなく、動作温度範囲が広く、長期供給が保証された「産業用グレード」の部品が選ばれます。
ソフトウェア
ハードウェアを意図通りに動かすためのソフトウェアを開発します。システムの要求に応じて、OS(オペレーティングシステム)を選定します。
リアルタイムOS (RTOS)
厳密な時間管理が求められるFA機器の制御やセンサー処理などで主流です。決められた時間内にタスクを確実に実行することに特化しています。
汎用OS (Linux / Windowsなど)
画像処理やネットワーク通信、高度なGUI(操作画面)など、複雑な情報処理が求められるシステムで使用されます。
ベアメタル・プログラミング (Non OS)
OSを搭載せず、プログラムにより直接ハードウェアを制御する方法で、このソフトウェアをファームウェアと呼ぶことがあります。決められた時間内にタスクを処理するために、マイコン内のタイマを使用して確実にタスクをこなすよう制御されます。ETHERNET等、OSを介してプロトコルスタックを実装する必要のない組込みシステムには、このOSを実装しないベアメタル・プログラミングを採用することが一般的です。
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40年以上にわたり、産業用組み込みシステムの開発に携わってきた豊富な経験と高い技術力を活かし、お客様のパートナーとして、構想設計から回路・基板設計、組み込みソフトウェア開発、評価、そして製造・検査に至るまで、製品開発の全工程をワンストップでサポートいたします。
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当社の開発実績
画像データ録画装置(PoE HUB ユニット)

カメラで撮影した画像データを録画・保管する装置を開発した事例です。当初、お客様よりご相談いただいた要望は下記の通りでした。
・特定エリアを複数カメラ(最大4台)で常時撮影する
・その撮影データを当装置内で録画・保存する
・信頼性が極めて重要で、録画データの消失などは許されない
・Ethernetスイッチ(Microchip製)とPoE電源コントローラ(Texas Instruments製)を活用する
・PoE(Power over Ethernet)給電では、電流・電圧変動の影響を受けやすいため、安定制御を考慮する
これらの要件を基に、当社にて開発を進めました。産業機器向け装置として高い信頼性が求められるため、録画状態監視・内部ログ管理・異常時の自動リカバリ機能なども実装し、録画が途切れない仕組みを構築しています。
